諸々の法は影と像の如し
「章親。毛玉を入れたら、すぐ閉めろ」

 魔﨡に言われ、章親は、もうちょっとだけ戸を開いた。
 そこから若干平べったくなった毛玉が飛び込んでくる。

「どうしたのさ毛玉。押し付け過ぎて形変わってるよ」

 うにうにと毛玉を押して形を直しながら章親が言うと、毛玉はやっと、ふぅ、と息をついた。

「だって今日は章親様がわしを置いて行ってしまうし。のわりに、呼ぶ声が聞こえるし」

「馬鹿者。呼んだわけではない。お前の名が出ただけじゃ」

 少し嬉しそうに言った毛玉を、魔﨡がばっさり斬る。
 毛玉は恨めしそうに、下唇を突き出して魔﨡を見上げた。

「そ、それより毛玉。何かあったの? 形が変わるほど急いでたみたいだけど」

 とりあえず魔﨡と毛玉の間に割り込んだ章親に、毛玉は、ぽん、と手を叩いた。

「そうそう。章親様に呼ばれたと思ったから、とりあえず来てみたんですよ。んでも、ここ、何かちょっと怖くて。とりあえず森の外から章親様のところまでは一気に飛んだんですけど、その戸の向こうで誰かに見られてるような気がして」

 ひく、と引き攣る章親とは反対に、魔﨡は鋭い目で戸を睨んだ。

「……章親。ちょっと離れていろ」

 言いつつ魔﨡は片膝を立て、片手で錫杖を持ったまま、片手でそろ、と妻戸を開ける。
 しばらくそのまま外を見ていた魔﨡は、やがてそろりと簀子に出た。
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