諸々の法は影と像の如し
「……今は視線は感じぬな」

 ぼそ、と呟き、ちら、と章親を振り返る。

「一応この周りを見回ってくる」

「え、でも。一人で大丈夫?」

 章親の言葉に、魔﨡はちょっと目を見開いた。

「我を何じゃと思っておる。人食い鬼など敵ではないぞ?」

「あ、うんまぁ、そうだろうけど」

「章親。お主、我を心配してくれるのか」

 少し嬉しそうに、魔﨡が章親に顔を寄せた。
 章親は素直に、うん、と頷く。

「だってさ。やっぱり怖いじゃない。魔﨡は強いけどさ、ほんとの本気で戦ったことはないでしょ? もしかしたらあの鬼も結構強いかも」

「我がほんとの本気で戦うと、それこそこの社などぶっ壊れるわ。我は龍神ぞ? 龍神の力を甘く見るなよ。少なくともあのような小鬼は敵ではない」

 錫杖を肩に担ぎ、胸を張る。
 何とも頼もしい。

 不敵に笑うと、魔﨡はきょろ、と辺りを見回した。

「それよりも、結界はしっかり張っておいたほうがいい」

「う、うん、わかった。あんまり遠くに行かないでね」

「遠くに行ったとて、章親が呼べばすぐ来るわい」

 はっはっは、と高らかに笑い、魔﨡はすたすたと歩いて行った。
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