諸々の法は影と像の如し
 さて賀茂社の中をぶらぶらと歩いていた魔﨡は、糺の森を流れる川のほとりで伸びをした。

「う~む、良い気持ちじゃ。水気も十分あるし、何より空気が美味い」

 満足そうに深呼吸する。

「とっとと鬼を捕えねば、あの宮を宮中に帰せぬではないか」

 実際に鬼が現れたからには、宮様をお送りするだけでも大変だし、事件は解決していないので、今後も貴族の不安は続くだろう。
 人が襲われるのを見た宮様が、あっさり宮中に帰るとも思えない。
 陰陽師が沢山出張って警護に当たっていたこの場で人が食われたのだ。
 内裏の結界など、何の役にも立たないのではないか。

 ぶつぶつ考えていた魔﨡は、ふと視線を感じた。
 きょろ、と周りを見回すと、何人かの参拝客が遠巻きに己を見ている。

 一応宮様の参拝は終わっているので、すでに一般の参拝客も行きかっているのだが、魔﨡はやはり目立ってしまう。
 髪の色が普通でないのだ。

「どーも忘れがちじゃなぁ」

 呟き、ぽりぽりと頭を掻くと、よっこらしょ、と立ち上がる。
 普段から物の怪の跋扈する都ならでは、魔﨡のような髪の色の者も案外大事にならないで済んでいるのだが、さすがに二度見はされる。
 故に外を歩くときは、いつも市女笠を被っているのだが、今日は巫女という役柄故、そのままなのだ。

「帰るかな」

 晒し者になるのは気分の良い物ではない。
 章親らのところに帰ろうと、魔﨡は来た道を戻った。
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