諸々の法は影と像の如し
遠巻きにじろじろ突き刺さる視線を振り切るように歩いていた魔﨡は、ふと足を止めた。
くるりと振り向く。
周りの者は、魔﨡を見はするが、さすがに立ち止まって眺めるわけではない。
通りすがりに、じーっと見て行くだけだ。
が、その中で、一つ気になる視線があった。
振り返った魔﨡の目に、離れたところに佇む若者が映った。
能面のように表情のない顔。
魔﨡を珍しそうに見ている感じでもない。
何より若者に、何か違和感を感じた。
「これお主」
びし、と錫杖を若者に突き付け、そのままずかずかと近づく。
「このようなところで何をしておいでじゃ? 参拝とも思えぬが」
目の前に立ち、魔﨡が問う。
若者は特に表情を動かさず、じ、と魔﨡を見た。
その瞳に、僅かに魔﨡の眉間に皺が寄る。
漆黒の瞳は澄んでいて綺麗だが、底知れぬ沼を思わせる。
この瞳をずっと見ていると、闇に引き込まれるような恐怖を覚えるだろう。
「……お主、人か?」
魔﨡の言葉に、若者は初めて薄く笑った。
そして、す、と手を差し出した。
「?」
何か摘んでいる。
魔﨡が手を出すと、若者はその手の平に、摘んでいた小さな物を落とした。
小さな石だ。
若者はそのまま、くるりと背を向けた。
「……何じゃ、あ奴は……」
手の中の小石と去っていく若者の背を交互に見ながら、魔﨡はぼそ、と呟いた。
若者に渡された小石を摘み上げ、まじまじと見る。
これはもしかして、先程部屋に飛び込んできたものと一緒ではないか?
そう気付いたとき、がさ、と背後で音がした。
はっと魔﨡が振り向くと、茂みの陰がやたらと暗くなっている。
すでに夕刻とはいえ、まだそこまで暗くはない。
ただ影になっているだけでも、あそこまで暗くはならないはずだ。
くるりと振り向く。
周りの者は、魔﨡を見はするが、さすがに立ち止まって眺めるわけではない。
通りすがりに、じーっと見て行くだけだ。
が、その中で、一つ気になる視線があった。
振り返った魔﨡の目に、離れたところに佇む若者が映った。
能面のように表情のない顔。
魔﨡を珍しそうに見ている感じでもない。
何より若者に、何か違和感を感じた。
「これお主」
びし、と錫杖を若者に突き付け、そのままずかずかと近づく。
「このようなところで何をしておいでじゃ? 参拝とも思えぬが」
目の前に立ち、魔﨡が問う。
若者は特に表情を動かさず、じ、と魔﨡を見た。
その瞳に、僅かに魔﨡の眉間に皺が寄る。
漆黒の瞳は澄んでいて綺麗だが、底知れぬ沼を思わせる。
この瞳をずっと見ていると、闇に引き込まれるような恐怖を覚えるだろう。
「……お主、人か?」
魔﨡の言葉に、若者は初めて薄く笑った。
そして、す、と手を差し出した。
「?」
何か摘んでいる。
魔﨡が手を出すと、若者はその手の平に、摘んでいた小さな物を落とした。
小さな石だ。
若者はそのまま、くるりと背を向けた。
「……何じゃ、あ奴は……」
手の中の小石と去っていく若者の背を交互に見ながら、魔﨡はぼそ、と呟いた。
若者に渡された小石を摘み上げ、まじまじと見る。
これはもしかして、先程部屋に飛び込んできたものと一緒ではないか?
そう気付いたとき、がさ、と背後で音がした。
はっと魔﨡が振り向くと、茂みの陰がやたらと暗くなっている。
すでに夕刻とはいえ、まだそこまで暗くはない。
ただ影になっているだけでも、あそこまで暗くはならないはずだ。