諸々の法は影と像の如し
 そんな章親と守道の考えを裏付けるように、牛車の御簾が、ぱっと跳ね上げられた。

「このまま安倍屋敷に行きましょう」

「無理です」

 ばさっと守道が斬る。

「何でよ? 宮中よりも陰陽の頭の屋敷のほうが安心でしょう」

「それであっても、宮様がお越しになるような場所ではありません」

「ああ、それなら問題ないわ。大体ねぇ、今回の参拝をわたくしが行ったことからしても、わたくしの立場がわかるというものよ」

 ひらひらと扇を振って、宮様が言う。
 ああ、やっぱり魔﨡に似てる、と章親は密かに頭を抱えた。

 魔﨡も宮様も、気品があるのに開けっ広げだ。
 黙って御簾の向こうに座っていれば、普通の『美しい姫君』なのに、御簾の向こう側どころか、顔を隠すべき扇も、今や閉じている。
 心底残念だ。

「一の宮とか二の宮とか、そんな名でないことからしてもわかるでしょ。わたくしのことなんて、お上は知りもしないわよ」

「……えっと。いやでも、伊勢の斎宮候補ではあるわけでしょ? お上の指名じゃないんですか?」

 そもそもこの宮様の名など知らない。
 だが伊勢の斎宮に選ばれるということは、それなりの皇女であるものだと思っていたが。
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