諸々の法は影と像の如し
「今月の召喚者、近く発表になるようだぜ。そろそろお前も選ばれる頃だ」

「僕はまだいい」

 先に立って歩いていた少年のほうは、驚いた顔で振り向いた。

「何言ってんだよ。章親は安倍家の直系だろ。遅いぐらいだぜ」

 小柄な少年は安倍 章親(あべの あきちか)。
 あの安倍 晴明を祖父に持つ。
 血統から言えばこの上なく強い陰陽師の家系だ。

「でも僕は、その血を活かせられない」

 しょぼん、と言う。
 章親は確かに安倍の家の者だが、何というか、能力は凡人だ。

 式を作るのは好きだが、身の回りの世話をお願いする程度の、人と同じだけの能力しかない式しか作れない。
 章親の式の、人と違うところといえば、足音がないとか、影がないとか、あとはせいぜい宙を舞うぐらいだ。

「呪文系だって、よく勉強してるじゃないか」

「実戦で使えないと意味ないよ。守道みたいに悪霊祓いとか出来ないもん。怖くて」

 先を歩く少年は賀茂 守道(かもの もりみち)。
 章親よりも大分背も高く、身体付きもがっしりしている。
 すでに召喚の儀を済ませ、方々の貴族から持ち込まれる祈祷などもこなしていた。
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