諸々の法は影と像の如し
 章親が言うと、宮様は、あはは、と明るく笑った。

「あのね。普通の皇女が伊勢の宮に籠るわけないでしょ。一の宮や二の宮なんて、政治的にも重要な皇女が務める役ではないの。言ってしまえば、いらない皇女の役割なのよ」

 くるくると閉じた扇を回しながら、宮様が言う。

「まぁ、代替わりのときに丁度いい年齢で、しかも未婚っていうのを踏まえると、おのずと絞られるから、いつもいつもそんないらない皇女がいるとは限らないんだけど。それなりの皇女がなることもあるしね。伊勢の斎宮は、やっぱり名誉なことだし」

「じゃあ宮様も、別に不満ではないんですね?」

「全然。京で燻ってるよりも、伊勢まで行けるなんて楽しそうだし。屋敷の中にいるのも飽き飽きだしね」

 魔﨡が二人いる……と思ったのが顔に出たのか、宮様は、ずいっと身を乗り出して章親を覗き込んだ。

「女子のくせに、はしたない、とか思ってる?」

 いきなり間近に顔を寄せられ、章親は目を剥いた。
 そして次の瞬間、ばっと飛び退る。

「なっ! ちょ、ちょっと宮様っ! じ、自分の立場ってものを考えてくださいっ」

 普段の章親からは想像も出来ないほどの身体能力で、かなり遠くに膝をつく。
 守道も少し驚いた顔で、一足飛びに飛び退った章親を見た。
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