諸々の法は影と像の如し
「……章親。そんなに離れたら置いて行くぞ」

 牛車は動いているのだ。
 慌てて章親は立ち上がると、牛車の横に戻った。

 が、前方から身を乗り出している宮様からは微妙に距離を取る。
 女性の元に通ったことのない章親は、女性と接近すること自体がないのだ。

 まして普段であれば姿はおろか声も聞けないほどの高貴な女性の上に、宮様は見てくれも美しい。
 不慣れな章親には刺激が強すぎるのだ。

「嫌われたもんね~」

 しばらく車の中から章親を見ていた宮様だが、身体を戻すと拗ねたように言った。

「い、いえあの。決してそういうわけでは……」

 章親が慌てたように、赤い顔で下を向いたまま言う。
 見かねた守道が、微妙な顔で助け舟を出した。

「そうでなくて、章親は女性に慣れていないんですよ」

「慣れてないって言っても、女房とか周りにいるでしょう?」

「章親の身の回りの世話は、もっぱら式の役割なので。章親の式は質がいいので、他に雇う必要がないんですよ」

「へぇ。さすが陰陽師ねぇ。小さい鬼とかがうようよいたりするの?」

 またも宮様は身を乗り出して、わくわくと章親に話を振る。

「いえ、鬼は毛玉だけです」

 鬼のような激しい気性の御魂がいるけど、と内心思いつつも、章親が答える。
 車の奥で、魔﨡がきろりと章親を見た。
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