諸々の法は影と像の如し

 ざざざ、と風が吹いている。
 細い灯りは今にも消えそうに揺れ、粗末な部屋の壁に映る二つの影を不気味に揺らした。

「折角の機会だったに、みすみす逃したか」

 苛々と部屋の中を歩き回っていた道仙が、独り言のように言った。

「あんなに式を渡したのに、それも内裏にばら撒けず……。餌食に出来たのは検非違使一人か」

 ぴた、と足を止めた道仙は、足元に平伏する惟道を睨み付ける。

「何のためにお前を育てたと思っているのだ」

 前にしゃがみ込み、惟道の髪を乱暴に掴む。
 そのまま、惟道の頭を床に叩き付けようとして、寸前で思い止まる。

 血が出たら、己の身が危うい。
 代わりに道仙は忌々しげに、掴んでいた髪を投げ出すように放した。

「また適当に、穢れをばら撒いておくんだな!」

 言い捨て、道仙は足音荒く部屋を出ていった。

「……」

 道仙の足音が聞こえなくなってから、惟道はゆっくりと上体を起こした。
 相変わらずその顔には表情というものがない。
 能面のような無表情で、惟道は揺れる灯を見つめた。
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