諸々の法は影と像の如し
「ん? でもあの子がそうだとは思えないなぁ」

 あの不思議な若者は、章親と同じか、むしろ下ぐらいに見えた。
 もっとも例の術師が晩年に作った子であるならわからないが。

「それに、別にその術師がその後何かをけしかけて来たって話も聞きませんよ。播磨に行ってからは、向こうでの仕事が成功したみたいですし。むしろ都にいた頃よりも裕福だったんじゃないですかね。格好良い人でしたし、人気もあったでしょう」

「へー、そうなんだ。毛玉、詳しいね」

「わしは術合戦自体は見てませんが、それを聞いて術師に興味を持ちまして。見に行ったりしましたし」

 毛玉によると、術合戦に敗れた後は、しばらく晴明を恨んでいたようだったらしい。
 あれほどの術師であれば、晴明が中身を変えたのにも気付いただろう。
 悔しがるのも当然だ。

「若いし、ただ当てた中身を変えられて敗れたのも腹が立ったでしょうし、おまけに九条家からも捨てられる。当時は恨みが深かったでしょうけどね。お子さんもいたみたいだし、大きな出世の道を絶たれたら、そりゃあねぇ」

「なるほど。でもそれも、初めのうちだけだったっての?」

「だと思いますよ。何だかんだで、都には術師が多いですし。そんな中で大貴族お抱えになったら安泰ですけど、一介の術師にそんな機会はほぼないです。でも地方に行けばそうそう強い術師もいないでしょうから、あっという間に人気者ですよ。地方の貴族は結構裕福ですからね、結果的に良かったのだと思います。そもそもその人、帰京が許されても帰ってきてませんし」
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