諸々の法は影と像の如し
「章親? 何をしておるのだ」

 とっぷりと夜も更けた階に、ぼんやり座る章親を見、歩いて来た吉平が驚いて声をかけた。

「宮様は、もうお休みか?」

 ここは宮様のいる部屋からは、少し離れている。
 さすがに同じ部屋で寝るわけにはいかないので、寝るときは章親も部屋に帰るのだが、ここは章親の部屋の近くでもない。

「……どうも僕は、女性のお相手は出来ないようです」

 はぁ、とため息と共に言う章親に、首を傾げつつも吉平は横に座った。

「何かあったのか?」

 吉平に聞かれ、章親は宮様とのやり取りを話した。

「僕には何で宮様があんなに怒るのかがわかりません。それに、僕をぶったから、てっきり怒ってるんだと思ったら、お泣きになるし。宮様を泣かせてしまうなんて、一体僕は何をしたんでしょう」

「お前は今まで、女性と接したことがないからなぁ」

「そういえば、魔﨡も僕が名前を付けなかった頃、式には付けるくせに自分には付けてくれないって怒ってたな。怒ってるわりには何だか泣き出しそうだったし」

 ははは、と吉平が笑い声を上げた。

「いきなりなかなか手のかかる女子に引っかかったもんだな」

「笑いごとじゃないですよ。何で宮様は、あんなに怒るんです。身分をわきまえずに接したほうが、よっぽど失礼だと思うんですけど。何で泣くほど怒られるんだろう」
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