諸々の法は影と像の如し
「そうかもしれぬが、あの宮様はお育ちがお育ちだし、身分どうこうよりも仲良くして欲しいのではないかな」

 ちょっと章親が首を傾げて吉平を見た。

「お上の孫でありながら、母君の身分が低かったこともあって、ずっと嵯峨野でお暮しだった。内裏に入ったのは去年かそれぐらい。物心のつかない幼子でない分、さぞ窮屈だったであろうよ。気安く話せる者もおらぬであろうし」

「父上は、宮様をご存じだったの?」

「ああ。まだ宮様がお小さい頃に、一度嵯峨野でお会いした。母君が病になって、その祈祷にな。宮様は覚えておらぬだろうなぁ。まだほんの幼子であったし」

 懐かしそうに言う。
 章親は空を仰いだ。

 宮様のあの気の強さは、虚勢を張っていただけなのだろうか。
 常に気を張っていないと、宮中ではやっていけないのかもしれない。

「宮様も寂しかったのだろうから、同じ歳ぐらいのお前とは親しくなさりたいのであろう」

「でも、あまりに身分が……」

「身分に拘って宮様を傷付けるのも、どうかと思うぞ。女性を泣かせるものではない」

 にやりと笑う吉平に、章親は赤くなった。

「お前がもうちょっと頑張れば、昇進だって早いだろう。わしの跡を取れば昇殿も許される身だ。宮様が望めば、降嫁も夢ではないかもしれぬぞ」

「なななっ何を言うんですかっ」

「なかなかお前も目が高いな。いきなり宮様だとは」

 狼狽える章親など意に介さず、吉平は、はっはっはと笑うと、ぱん、と章親の背を叩いて立ち上がった。

「とにかくお前も、あまり気負わず宮様に接して差し上げなさい」

 そう言って、簀子を歩いて行く。
 はぁ、と章親はため息をつき、自分の部屋へと戻って行った。
< 220 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop