諸々の法は影と像の如し
「も、守道。この辺りで止めておかない?」

「何言ってる。別にまだ日も高い。何か起こっても大したことはないさ」

 怖々辺りを見回しながら歩く章親の前を、守道は変わらぬ速度でずんずん歩く。

「今日は魔﨡もいないしさぁ」

 魔﨡からすると、このように楽しげなことに参加しないわけはないのだが、今は屋敷に宮様がいる。
 何かあっては一大事なので、魔﨡は宮様の護衛として屋敷に残っているのだ。

 毛玉もすっかり宮様に気に入られて一緒にいる。
 考えてみれば宮様の周りは物の怪だらけなのだが、当の本人は気付いているのかいないのか、気にする風はない。

「そんな心配しなくても、魔﨡はお前が呼べば、すぐに来るだろ」

 それはわかっている。
 だからこそ、頼りになる魔﨡を屋敷に置いて来たのだ。

「そういえば、すっかり魔﨡に頼り切ってしまってるなぁ。僕が弱いから、強い魔﨡が降りてくれたのは良い関係だ、と思ってたけど、このままだと僕、ますます何も出来なくなるかも」

「そう思うなら、一人で人食い鬼に立ち向かうことも必要だろ」

 そうこうしているうちに、とうとう周りは荒涼とした土地になってしまった。
 生れてこのかた、こんな外れまできたことはない。
 しかも。

「……あれか」

 前方に、土地にそぐわない屋敷が建っている。
 いかにも怪しげだ。

「まずは式に探らせよう」

 懐から小さな紙を取り出す章親を、守道が遮った。

「俺がやろう。お前の気じゃ、気付かれるかもしれん」

「あ、うん」

 人食い鬼を御せるほどの術師であれば、式にも気付くだろうし、それを飛ばした者もわかるだろう。
 向こうは章親のことを知っているようだったが、蘆屋の家の者なのであれば、守道のことまでは知らないはずだ。
 昔の術合戦にも、賀茂家は関わっていない。

 守道は手早く懐から出した懐紙を折ると、ふっと息を吹きかけた。
 ひらひらと、守道の式は件の屋敷に飛んで行った。
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