諸々の法は影と像の如し
「あいつの言う通り、道仙って奴が大したことはないのなら、万が一結界を張られても、これを経由して紺を呼べる」
「う、うん。そうだね」
さしたる力もない、ということが、どの程度を指すのかはわからないが、相応の力であっても、すり抜けるぐらいは出来るはずだ。
章親も、急いで護符を門柱に貼り付けた。
「ねぇ、ところで君。君は何て言うの?」
先を行く若者の背に声を掛けると、彼は前を向いたまま、変わらぬ口調で答えた。
「惟道」
何だか全てに感情がない。
何を聞いても表情は変わらないし、口調も同じ。
僅かに先程見せた笑みらしきものが、唯一の表情の変化だ。
存在すら曖昧に思えてくる。
「これみち……。守道の縁者みたい」
「やめてくれ」
小さく、守道が不満そうに言った。
肩を竦め、章親は用心深く屋敷の中を見回した。
思ったより広い。
造りも立派で、都の貴族のお屋敷のようだ。
「今のところ、結界を張られた感じもないね」
「そうだな。つか、人の気配がないな」
広い屋敷なのに、使用人の姿が見えない。
そう考えて辺りをよく見てみると、なるほど、なかなか荒れている。
表のほうは掃除されているようだが、奥のほうまでは手が回らないようだ。
回廊の隅には砂埃が溜まり、天井には蜘蛛の巣も見える。
「こちらでお待ちを」
かけられた声に前を見ると、惟道が一つの妻戸を開けて、その前に控えている。
もう一度周りを見回してから、二人は部屋に入った。
その際にも、妻戸の傍に護符を貼っておく。
屋敷中に結界を張るより、部屋一つに張るほうが容易だ。
念入りに逃げ道を確保し、部屋の中に腰を下ろすと、惟道は特に妻戸を閉めるでもなく、そのまま去って行った。
「う、うん。そうだね」
さしたる力もない、ということが、どの程度を指すのかはわからないが、相応の力であっても、すり抜けるぐらいは出来るはずだ。
章親も、急いで護符を門柱に貼り付けた。
「ねぇ、ところで君。君は何て言うの?」
先を行く若者の背に声を掛けると、彼は前を向いたまま、変わらぬ口調で答えた。
「惟道」
何だか全てに感情がない。
何を聞いても表情は変わらないし、口調も同じ。
僅かに先程見せた笑みらしきものが、唯一の表情の変化だ。
存在すら曖昧に思えてくる。
「これみち……。守道の縁者みたい」
「やめてくれ」
小さく、守道が不満そうに言った。
肩を竦め、章親は用心深く屋敷の中を見回した。
思ったより広い。
造りも立派で、都の貴族のお屋敷のようだ。
「今のところ、結界を張られた感じもないね」
「そうだな。つか、人の気配がないな」
広い屋敷なのに、使用人の姿が見えない。
そう考えて辺りをよく見てみると、なるほど、なかなか荒れている。
表のほうは掃除されているようだが、奥のほうまでは手が回らないようだ。
回廊の隅には砂埃が溜まり、天井には蜘蛛の巣も見える。
「こちらでお待ちを」
かけられた声に前を見ると、惟道が一つの妻戸を開けて、その前に控えている。
もう一度周りを見回してから、二人は部屋に入った。
その際にも、妻戸の傍に護符を貼っておく。
屋敷中に結界を張るより、部屋一つに張るほうが容易だ。
念入りに逃げ道を確保し、部屋の中に腰を下ろすと、惟道は特に妻戸を閉めるでもなく、そのまま去って行った。