諸々の法は影と像の如し
「う、そ、それは……」

 ちょっと御魂が視線を逸らせた。
 あらぬほうを見、少し照れ臭そうにする。

 何か妙な沈黙が落ちてしばらくしたとき、楓が、ぱっと立ち上がって簀子に出た。
 そしてすぐに戻ってくると、章親を見ながら寝殿のほうを指差す。

「何だい、どうかした?」

 言いつつ身を乗り出して寝殿のほうを見た章親は、ああ、と呟いて腰を上げた。

「何じゃ、また仕事か?」

 どこかうきうきと錫杖を掴む御魂に、章親は胡乱な目を向けた。

「仕事は仕事ですけど。毎日の日課ですよ。夕刻に、屋敷内の浄化をするんです。一日の穢れを持ち越さないようにね」

 章親の浄化能力の高さは誰もが認める。
 昔から、屋敷の浄化は章親の日課になっているのだ。

「今日はさっき屋敷に物の怪が持ち込まれたから、早々に浄化しなさいっていう、父上の伝言でしょう」

「浄化なら、あの後すぐにしたではないか」

「強力なのは始末したけど、人がいっぱいいたし。人がいたら、空気は汚れやすいからね」

 一通り説明し、章親は簀子に出ると、呪を唱えながらゆっくりと歩いて行く。
 歌うように謡うように呪を唱えながら、ぶらぶらと歩く姿は、ただ散歩しているようだ。
 だが章親が通過すると、周りの空気は澄んでいく。

 御魂は大人しく、そろそろと章親の後をついて行った。
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