諸々の法は影と像の如し
「だとしたら、ここにあっても都の変事は感じられるのではないですか? 蘆屋 道満殿は、稀代の術師だと聞いております」

 ぴき、と道仙の顔が引き攣った。
 道仙からすると、単に鬼の疑惑を自分から逸らすためにとぼけたのだが、確かに術師であれば、人食い鬼の出没ぐらいはわかるだろう。

「も、もちろん知っておる。ここにあっても都の変事は、手に取るようにわかるしの。式部卿の姫君が病に伏せっているのも知っている」

 若干慌てたように言った道仙は、己の能力を示すためか、いらぬことまで言及してしまう。
 能力も何も、全ては己が仕組んでいるのだから、知っていて当たり前なのだが。

「式部卿の姫君? 何故それを? それは変事ではないでしょう」

「う、い、いや。そのような些細なことでも、わしにはわかるということじゃ」

 守道の突っ込みに、道仙は明らかに狼狽えつつ言う。
 そして、簀子に控えていた惟道に、何やら合図した。

 惟道がどこかに去り、一刻してから膳を持って戻ってくる。

「とりあえず、お近づきのしるしに一献」

 道仙が言うと、惟道が二人の前に膳を置き、載っていた杯を差し出した。
 守道が受け取ると、そこに銚子の酒を注ぐ。
 同じように、章親にも酒を注いだ。
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