諸々の法は影と像の如し
---これは……---

 杯の中の酒は、淡い桜色。
 女子であれば、綺麗な色の珍しい酒に、何の疑いも抱かないだろう。
 だが、酒には強い穢れが付いていた。

---血だ!---

 穢れの小石には血が付いていた。
 同じ穢れが付いたこの酒の色は、血が入った故の色に違いない。

 章親は惟道を見た。
 変わらぬ無表情の瞳とぶつかる。
 その口角が、僅かに上がった。

「守道」

 これを飲んではいけない、と察し、章親は守道を見た。
 守道も酒の穢れに気付いたようだ。

 が、勧められた酒を受けた後で拒むのも難しい。
 ちら、と章親のほうを見、僅かに頷くと、守道は飲むふりをして、全て酒を袖に流した。
 杯は小さいので、そうびちゃびちゃになることもない。

---いや、だけど……---

 身体に取り込んでしまったら終わりだが、身に付いただけでも危険だ。
 今、穢れは守道の着物に付いている。

 どうしよう、と章親が躊躇っていると、二人の様子を何故かガン見していた道仙が、そそくさと立ち上がった。

「おお、是非ともお二方に見せたいものがある。しばし待たれよ」

 逃げるように去って行く。
 部屋から出るまで章親から目を離さなかったのは、まだ飲んでいないのを気にしていたからか。

 とりあえず、ほっと息をついて、章親は杯を置いた。
 そして守道ににじり寄る。
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