諸々の法は影と像の如し
「守道。着物の穢れ、祓ったほうがいい」

「ああ。だがちょっと待て」

 守道が章親を制し、ちらりと簀子を見る。
 そこに控えた惟道が、二人の様子を窺うように見ていた。

「惟道殿。この穢れは、お主の穢れか?」

 守道が立ち上がり、濡れた袖を示して言う。
 ほぅ、と少し感心したように、惟道が呟いた。

「いかにも。飲まなんだのは幸いだが、そのままでも危のぅございますぞ」

 そう言った惟道の視線が、二人を通り越した。
 はっとその視線を追った章親の顔から血の気が引く。
 部屋の隅の一点が、やけに暗い。

「も、守道っ!」

 章親が叫んだ途端、闇溜まりから何かが飛び出した。

「望むところだ! 紺!」

 素早く懐から護符を取り出し、守道が空に向かって叫んだ。
 ぱし、と空気が揺れ、現れた紺が、闇から現れた物の怪に体当たりする。
 同時に守道も、呪と共に護符を放った。

『ぎゃっ』

 耳障りな悲鳴を上げ、物の怪が転がる。

「章親! 通路を閉じろ!」

「えっ。そ、そんな」

 通り道を塞いでしまえば逃げられない。
 だがこのような空間、おいそれと閉じられるのだろうか。

「閉じられないなら、前に立って逃げられないよう防いでくれ!」

「嫌だよ!」

 そんなことしようものなら、物の怪がこちらに向かってくるではないか。
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