諸々の法は影と像の如し
 部屋の中ではあれほどの大騒ぎだったのに、惟道は何事もなかったかのように、初めと変わらずそこにいる。
 別段驚いている風でもないし、章親らを止める様子もない。
 いきなり現れた紺や魔﨡にも、特に何の反応も示さないまま、ただそこにいるのだ。

「お主にも聞きたいことは、たんとあるのだがな」

 どちらかというと、道仙よりも惟道のほうが気になる。
 道仙は単なる俗人、という感じしか受けなかったのだ。
 なにがしかの強い気も感じなかった。

 もちろん強い力を悟られないよう、故意に隠せる者もいるが、多分あれは、そうではない。
 惟道も、『さしたる力はない』と言っていた。
 その通りなのだろう。

「……お望みとあらば、俺を捕えて貰っても構わぬが」

 静かに、惟道が言った。

「捕える、といっても、別に俺は検非違使ではない。それに、実際人を襲っているのは鬼だ。お主にあのような鬼を操る力があるようにも見えぬし……」

 じろじろと惟道を見ながら、守道が言う。
 どれだけ気を探っても、何も感じられない。
 言ってしまえば、何も感じなさ過ぎる。

 人として当たり前の感情の気なども、全く感じないのだ。
 人形を見ているようである。
 鬼も怖いが、行動の目的が全くわからない分、惟道のほうが遥かに不気味だ。
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