諸々の法は影と像の如し
「ところで御魂様」

 夜も更け、単(ひとえ)になった章親は、困った顔で御魂を振り返った。

「御魂様って、夜とかどうするんです? 式と違うんだったら、僕ら人と同じなんですか? 食事とか……」

 楓はいつも、夜はいない。
 章親が自ら消しているわけではないが、紙に戻っているらしい。

 章親は一度式を作ってしまうと、滅してしまうようで消すことが出来ない。
 お蔭で長く章親の傍にいる楓は、力尽きたわけでもないのに自ら紙に戻れるようになったのだ。

「我は式ではないと言うておろう。元々がこの姿なわけだから、消えることはない。眠ろうと思えば眠れるしな。食事は特に必要ないが、それも食おうと思えば食える。その程度じゃ」

 何故か頑として上座に座ることはしないが、脇息は気に入ったのか離さない。
 それに寄りかかりながら、軽く言う。

「え、じゃあやっぱり、御魂様のお部屋が必要じゃない」

 慌てて章親が腰を浮かす。
 そろそろ寝たいのだが、御魂はどうするのかわからないので寝られないのだ。

「我の部屋など必要ない。そもそも我は人ではないぞ? そこのところを忘れておるのではないか?」

 そう言われても、見た目は何の違和感もないのだ。
 人と違うところなどない。
 確かに髪と目の色は普通ではないが。

「御魂様は、眠らないの?」

「眠らんこともない。疲れたら眠って体力を戻したりするしの」

「丸っきり人じゃない……」

 章親の言葉に、少し御魂は妙な顔をした。
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