諸々の法は影と像の如し
 相変わらず淡々とした物言いだが、その内容に、章親はぎょっとした。
 道仙は惟道の主ではないのか。

 兄がいるのか、その者のことも道満のことも、ちゃんと敬称が付いているのに、主であろう道仙だけは終始呼び捨てだ。
 しかも、愚かだと言う。

「……あの。道仙殿は、君の主……ではないの?」

 聞いてみると、惟道は片眉を僅かに動かした。

「主と言えば主。俺は道満殿に拾われ育てられた故」

 えっと、と章親は、会話の間にちらちらと垣間見える蘆屋家の関係性を整理した。
 道仙は道満の子だ。
 そして惟道は道満に拾われたという。

 となると、一応道仙と惟道は兄弟ということか。
 だが使用人として育てられたのだろうか。

「えっとぉ。道満殿って、どんな人だったの?」

「いい人だった」

 間髪入れずに返答した、ということは、道満には懐いていたのだろう。
 それにしても、会話が続かない。
 う~む、と悩んでいると、守道が痺れを切らせたように、ずいっと膝を勧めた。

「そんなことはどうでもいい。さっきの鬼は何だ? お前が持ってきた酒、あれに穢れが付いていた。同じように、以前章親の御魂に渡した穢れ付きの小石もお前が渡したものだ。あの穢れは、お前が付けたんだな?」

 背景を探ることなく、目下の問題を直球で聞く。
 惟道は、じ、と守道を見た後、僅かに顎を引いた。

「いかにも」

 あっさりと認める。

「あの鬼は、お前の付けた穢れを追って現れる。つまり、お前が鬼を操っているということになるぞ。何故だ」

 これには僅かに首を傾げ、惟道は少し考えた。
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