諸々の法は影と像の如し
「操っている……とは言えん。奴の、本当の狙いは俺だし」

「何だと?」

 わけがわからない、と眉間に皺を刻む守道に、惟道は顔を向けた。
 そして、長めの前髪を掻き上げる。
 ぎょ、と守道も章親も目を見開いた。

「そ、それは?」

 露わになった惟道の額には、くっきりと線が浮かんでいる。
 縦に四本、横に五本。
 九字紋である。

 だが。

「どこかで見た……あ!」

 ぽん、と章親が手を叩いた。
 確か、祖父の書き遺した書物の中だ。

「確か、道満殿の……。護符だっけ」

 安倍家にも同じように、強力な護符がある。
 晴明桔梗と呼ばれる五芒星だ。
 蘆屋 道満は護符として九字紋を用いていたらしい。

「あれ、でも……」

 格子状に重なっている中央に、何かある。
 普通の九字紋ではないようだ。

「中央にあるのが、鬼の印だ」

 そう言って、惟道は手を離した。
 ばさ、と前髪が落ち、額に刻まれた印が隠れる。
 しん、と沈黙が落ちた。

「……その印は、道満殿が?」

 章親が問うと、惟道ははっきりと首を振った。

「道満殿は、こんなことはせぬ」

 何となく言い方から、印を刻んだのは道仙なのだろう、と察せられた。

 う~む、と考えていた章親が、ふと顔を上げた。
 屋敷の空気が僅かに変わった。
 見ると、簀子をひらひらと小さな紙が飛んでくる。
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