諸々の法は影と像の如し
 白川のほとりを歩きながら、章親と守道は惟道から聞いた話を反芻していた。

「蘆屋 道仙は、奴の言う通り大した術師ではないようだな。式も雑だ。だが惟道にもそう強い力は感じない……。本人も、鬼を自分が操っているわけではない、と言ってたな。鬼の狙いは惟道だ、とも。どういうことだ」

 先を歩きながら、守道が首を捻る。

「確かに鬼はあの子の血に反応する。なのにあの子本人には襲い掛からないって、おかしいよね。そういう風に調教できる鬼なのかな。道仙殿が、鬼を仕込んだ、とか?」

「奴にそんな技術があるかね。そうだとしたら、あの鬼に道仙の気が付いてるはずだ」

「それを調べるのに、あの手を使うの?」

 ちらりと嫌そうに、章親は横を歩く魔﨡が担いでいる錫杖の先を見た。
 旅人の荷物のように、錫杖の先には小さな荷物らしきものが括りつけられている。

 魔﨡が突き刺した鬼の手を、穢れの付いた守道の衣で包んでいるのだ。
 洛中の屋敷まで、鬼の手を刺した杖を担いだ女子を連れて歩くわけにはいかない。

 ちなみに魔﨡は、袿を頭から被っている。
 女子が顔を曝して歩くのもおかしいし、銀色の髪など人目を引くだけだ。
 本人は不満そうだが。

「魔﨡。それ持ってて大丈夫?」

 錫杖の先で、魔﨡には触れていないとはいえ、鬼の手そのものなのだ。
 さらにそれを穢れの付いた布で包んでいるので、何となく杖を伝って穢れが拡散しそうな気がする。
 自分はそんなもの、絶対に持ちたくない章親は、魔﨡に聞いてみた。

「何が。このようなもの、重くもないぞ?」

 被きにしていた袿の奥から章親を見、魔﨡がきょとんと言う。

「いや、そうでなくて。気分が悪いとか、そういうことはない? 穢れの付いた衣で鬼の手を包んでるんだし、何か怖い気が二重になってそう……」
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