諸々の法は影と像の如し
「何の、これしきのこと屁でもないわ。章親が傍におるしの」

 章親はそこにいるだけで、その場の空気を綺麗にする。
 だがさすがに鬼そのものの邪気などには効かないと思うが。

「まぁ気分が悪くなったら言ってよね」

「大事ない」

 にこにこと言う。
 どんなに可愛くても、鬼の手をぶら下げていれば微妙である。
 章親は、ひそりとため息をついた。

「大体そんなに気になるなら、あのガキも連れてくれば良かったのではないか?」

 魔﨡が腰に手を当てて言う。

「う~ん。来てって言えば来てくれそうではあったけど。でも僕、道仙殿よりも、あの子のほうが怖いんだよね」

「俺も。道仙なんか、どうとでも出来るぜ。でも奴は……得体が知れない」

 守道も同感のようだ。

「奴が見せた、あの額の紋。あれが全てを握ってると見た。章親、呪術の類を調べてみよう」

「そうだね……。て、いやいや、守道も、うちに来るでしょ? まずはとりあえず、これ何とかしようよ」

 青くなって、章親が魔﨡の錫杖の先を指す。
 ああ、と守道も気付いたように、それを見た。

「そういやそんなものがあったんだな。そうだな、あの鬼がどういう鬼かわかれば、奴の印の意味もわかるかも」

 このまま存在を忘れられて、うっかり守道と別れてしまったら堪ったものではない。
 魔﨡は普通に、アレを家まで持って帰るだろう。
 一人で対応できる代物とも思えない。

「とりあえず、それから探るか」

 ということで、鬼の手は安倍家へと運び込まれたのである。
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