諸々の法は影と像の如し
第二十一章
「これが件の鬼の手か」

 安倍家の一室。
 結界を張った中央に、三方に載せられた衣と鬼の手が据えられている。

「指が三本か。下等な鬼だな」

 吉平が、しげしげと鬼の手を分析する。
 人の五本の指のうち、二本は『知恵』と『慈愛』であるという。
 それがないのが鬼だ。

 だが稀に、四本指の鬼も存在する。
 『知恵』がある分、他の鬼より厄介だ。

 この指は三本。
 人の襲い方から見ても、そう高等な鬼ではない。

「じゃあ調教されてるわけではないってことですか?」

 主を襲わないように躾けることなど、下等な鬼には無理な話である。
 人語を解するかも怪しい。

「そうだな。それでなくても鬼を使役するなど、並大抵のことではない。まして人食い鬼ぞ。大好物を食うなと言うようなものだぞ? わしでも抑えきれんわ」

「そうかぁ。でもそれじゃ、ますますわからない。道仙殿以外に、術師はいないみたいだったし。鬼がほんとに狙ってるのはあの子だっていうのも、あの子の血にしか反応しないところを見れば頷けるけど、だったら何で、本人が傍にいるのに鬼はあの子に襲い掛からないの」

 章親が聞くと、吉平も、う~む、と顎を撫でた。
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