諸々の法は影と像の如し
「内裏にね、宴の松原って恐ろしい森があるの。知ってる?」

 こく、と頷く。

「あそこには鬼が出るって、もっぱらの噂なのよ。しかもその鬼、見目麗しい青年の姿なんですって。で、宮中の女房に近付いて、後は、ぱっくり」

「……はぁ、それが?」

「だから、完全に人型の鬼ってのもいるってこと。その子も見た感じは全然普通なんでしょ? 格好良い姿で女子を引っ掛け、ぱっくりしてるんじゃないの?」

 宮様とも思えない物言いだ。
 だがわかりやすい。

「それにさ、人食い鬼って、人と同じ姿ってことなのかもよ? そのほうが近付きやすいでしょうしね」

「なるほど」

 ぽん、と手を叩く章親に、宮様は満足そうに微笑んだ。
 だが。

「いや、鬼は思いっきり異形でしたよ。鬼が現れてる間、あの子も変化(へんげ)しなかったし」

 確かに惟道自身が鬼なのであれば、宮様の言うことも一理ある。
 だが惟道と鬼は完全に別物だ。

「あの子の生霊ってわけでもなさそうだしなぁ」

 魂が抜け出て悪さをする、ということもある。
 だがそういった場合、その本人は寝ていたり、意識がなかったりするものだ。
 魂が抜けているのだから当然だ。

 が、惟道は普通に簀子にいた。
 鬼が守道らを襲ったのも見ているのだ。

 う~む、と考え込む三人に、宮様は痺れを切らせたように、ぱし、と扇を打ち付けた。

「もぅ、考えたってわからないなら、本人に聞けばいいじゃない」

「うえっ? あの子に?」

 確かに惟道に聞くのが手っ取り早い。
 何を聞いても答えは返してくれる。

 だがいまいち敵なのか味方なのかわからない。
 安易に接触していいものか。
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