諸々の法は影と像の如し
 夜更け、納屋で転がっていた惟道は、額に若干違和感を感じた。
 そろ、と手をやると、印が少し熱を持っている。
 だが身体が辛いということはないので、病というわけではなさそうだ。

 仰向けになって天井を眺めていると、ぼんやりと大きな目が見えてくる。
 目は、じっと惟道を見、僅かに細くなる。

『……早く……食いたい……』

 耳障りな声が、惟道の耳に届く。
 惟道は目を閉じた。

 いつものことである。
 が、今夜は小さく、声が続いた。

『……手が……』

 しばらくそのまま目を閉じていた惟道は、ああ、と額に手をやった。
 そういえば、鬼は陰陽師に手を斬りおとされた。
 この額の熱はそのためか。
 もしかして鬼は、怪我に苦しんでいるのだろうか?

 そうだとしても、どうでもいい、と寝返りを打ったとき、ぱし、と額に小さく衝撃を感じた。
 そして何か、すっと気持ちが良くなった。

「……?」

 惟道は上体を起こし、周りを見た。
 特に納屋の中には変化はない。

 そろ、と再び額に手をやると、先の熱はなくなっている。
 だが印は依然としてそこにある。

 ふ、と息をつくと、惟道は再びごろりと横になった。
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