諸々の法は影と像の如し
「僕にはそんな大層な力はないよ。昨日だって結局物の怪退治はしてないし」

「お前なぁ……」

 守道が渋い顔になる。
 そのとき、不意に部屋の隅から笑い声が上がった。

「章親。御魂の召喚を行ったんだって? 陰陽寮でやらなかったってことは、もしかして実は失敗したんじゃないのか?」

「龍神なんて召喚したら、お前のことだ、腰抜かすだろ」

 げらげらげら、と笑う。
 こういう輩もいるのだ。

 章親などは安倍家の者というだけで嫉妬の目を向けられることも珍しくない。
 宮中にあっても実力よりも家柄が物をいう時代だ。
 陰陽寮はどちらかというと実力重視ではあるが、やはり名もない家の者が重要な地位につくのは稀である。

 同じような立場であっても守道にはこういった苛めはない。
 昔はあったかもしれないが、彼は身体も大きかったし、実力を見せつけて周りを黙らせてきた。

 だが章親は違う。
 身体つきも小さく華奢で貧弱だし、性格も大人しい。

 何より章親の力は、目に見えるものではないのだ。
 それであっても陰陽師であるなら何か感じるだろうに、この者たちにはわからないらしい。
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