諸々の法は影と像の如し
「お前に龍神なんか降りるわけない。小さいヤモリでも、たまたま落ちて来たんだろ」

 あっはっは、と笑う一団に、守道が口を開こうとした、そのとき。

「誰がヤモリじゃ!」

 甲高い声と共に、しゃらん! と音がした。
 その一瞬後には、さっき章親を笑った一人が、どすん、と尻もちをつく。
 しん、と静まり返った室内に、再びしゃらん、という音が響き、章親の御魂の持つ錫杖が、今一人の男の鼻先に突き付けられた。

「下賤な身で、我を愚弄するか」

 目も眩むほどの美女に凄まれ、男はわけがわからないまま、ふるふると必死で首を振った。
 いきなり現れたこの美女が何なのかはわからないが、とにかく殺気にも似た空気を遠慮なしにぶつけてくる。

 美女の凄味ほど恐ろしいものはない。
 誰もが言葉を失い、息を呑んで錫杖を構える美女を見た。

「み、御魂様。どこから湧いて出たのさ」

 いきなりな出現に、章親が慌てる。
 が、すかさず守道が、ばこんと章親の頭を殴った。

「痛いっ。守道、何すんだよ」

「馬鹿。御魂に向かって、湧いて出るなんて言うな」

 注意し、さらに章親の耳元で、こそっと付け足す。

「ただでさえ、あの御魂は恐ろしいだろ」

 う、と口を噤んで、章親はこくりと頷いた。
 守道が先に叱ってくれたから良かったものの、章親が御魂に声をかけた瞬間の、彼女の視線は刺すような鋭さだった。
 守道が叩かなかったら、章親にも錫杖が飛んできたのではないだろうか。
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