諸々の法は影と像の如し
 悔しそうにしている守道の後方で、惟道は簀子の上で高笑いする道仙を見た。
 なるほど、かなり強固な結界のようだ。

 ならば、と惟道は、前に出つつ腰の小刀を抜いた。
 ざり、という砂利を踏む音に、道仙の目が惟道に向く。

「惟道? 何をするつもりじゃ」

 惟道が小刀を抜くのは傷をつけるときだ。
 つまり、鬼を呼び出すとき。
 だが今、道仙は何も命じていない。

「鬼を呼び出すか? そ奴らにけしかける気か?」

 面白そうに目を細める。
 惟道は簀子のすぐ下まで来ると、開いた片手の平に、刃を当てた。

「ずっと試したかったことがある。その結界が最強なのであれば問題なかろう」

 そう言うや、惟道は刃を引いた。
 軽く当てたわけではないようで、すぐに血が手の平を覆う。
 手の平は腕よりも出血するのだ。

「こ、惟道……?」

 何か異様な雰囲気を感じ取ったのか、道仙が僅かに後ろに下がろうとする。
 が、それより速く、惟道が地を蹴った。

 そして血塗れの手を、思い切り道仙を叩くように払う。
 手が道仙の鼻先を掠めると同時に、その軌道を追って、ぱ、と赤い血が飛んだ。

「ひぃっ!!」

 今までにないような狼狽えようで、道仙が衣を脱ごうとする。
 再び簀子の下に降り立った惟道は、ただその様子をじっと見つめた。

「こ、惟道! 何てことを!」

 血は結界を越えたようだ。
 物理的なモノであれば結界が阻んでくれようが、血そのものだと通過してしまうらしい。

 おそらく聖水などの類もそうだろう。
 血痕の付いた衣を引っ張り、道仙は真っ青になっている。
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