諸々の法は影と像の如し
「惟道殿、しっかり」

 言いながら、章親は素早く自分たちの周りに小さな結界を張った。
 その上で、袖で惟道の血を拭う。

 穢れがどうのとか、言ってられないほどの傷だ。
 鬼が出たら喜々として襲い掛かりそうな魔﨡が、珍しく章親の前に立った。

「章親。鬼は気にせず、そ奴の手当てをするがいい」

 章親に背を向けて、魔﨡は簀子を睨んでいる。
 鬼と戦うことよりも、章親を守ることを優先したらしい。
 惟道の手当てをすると、どうしても血が付いてしまうからだろうか、と思いつつも、章親はちょっと嬉しく思った。

「ありがと、魔﨡。でも守道が危なかったら、あっちに行ってね」

 今のところ、紺が鬼にかぶりつき、守道も呪縛の術を放っているので、鬼は苦戦しているようだ。
 逃げることも出来ず、暴れ回っている。

「惟道殿、惟道殿」

 声を掛けてみるが、惟道はくたりとしたまま動かない。
 額がぱっくり割れ、真っ赤な血が止めどなく流れる。

「困ったな……。頭だと縛るわけにもいかないし……」

 病気なわけではないので、陰陽師には手の施しようがない。
 とにかく袖で血を押さえつつ、章親は惟道の顔色を窺った。

 その時、背後で凄い光が放たれた。
 驚いて顔を上げると、紺が吹き飛ばされたところだった。
 守道の呪縛を、鬼が無理やり破ったらしい。

「紺!」

 守道がよろめきながら、飛ばされた紺を抱き留める。
 鬼も相当弱ったようだが、何かに突き動かされるように、ぐるんとこちらを向いた。
 ぎらぎら光る大きな目が、章親を捕える。
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