諸々の法は影と像の如し
 そのとき。

『ぎゃあおおおぉぉぉ!!』

 物凄い悲鳴を上げ、鬼の身体が燃え上がった。

「……やった……」

 不動明王呪が成ったのだ。
 安堵すると共に、章親の腕から力が抜ける。
 ぼと、と炎の塊となった鬼が、地面に落ちた。

「章親! 大丈夫か?」

 守道が駆け寄る。
 ちりちりと、炎は章親の肩や胸辺りを焼いているが、それは鬼の痕跡を浄化しているためだ。

 章親が放った不動明王の炎は、不浄のもののみを焼き払う。
 人の身体に影響はない。

「こ、惟道殿は……」

 守道に支えられながら、章親が傍に倒れている惟道に目を落とす。
 そして、はっとした。

『……ふー……ふー……』

 炎に巻かれながら、鬼がよろよろと惟道に近付いている。
 そして、がばぁっと口を開けた。

 元々『惟道を食う』ために召喚された鬼である。
 額の紋による加護がなくなった今、鬼はその目的だけに突き動かされている。
 消滅する前に、念願のご馳走を食べる気なのだろう。

「惟道殿っ!」

 出血で朦朧としたまま、章親は鬼に手を伸ばした。
 しゃあっ! と唸り声を上げて、鬼はその手を振り払う。

 最早あまり力もない章親の手は呆気なく弾かれ、勢いで章親は、その場に倒れ込んだ。
 鬼の牙が、惟道の首筋に迫る。

「駄目だ! 魔﨡! 鬼を滅して!!」

 章親が叫んだ瞬間、少し後ろで物凄い光が放たれた。
 守道が袖で顔を覆う。

 すぐに辺りが暗くなり、雷鳴が轟いた。
 鬼は異様な雰囲気に、惟道の首筋に牙を当てたまま固まっている。

 ばりん! と大きな稲妻が傍に落ちた、と思ったとき、倒れていた章親の頭上を、何かが、さぁっと掠めた。
 それはそのまま惟道に迫る。
< 305 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop