諸々の法は影と像の如し
『ぎゃう!』

 章親は目を見開いた。
 鬼が、鋭い爪に引っ掛けられて、宙に浮いている。

「我の主に傷をつけるなど、万死に値する罪ぞ」

 魔﨡の声が、空から降ってくる。
 鬼を捕まえているのは、大きな龍だ。
 金色に光る眼で、章親らを見下ろしている。

 魔﨡の本身だ。
 章親の命に反応して、本身を曝したようだ。
 人型よりも、より確実に鬼を滅することの出来る本身を選んだのだろう。

 魔﨡はそのまま鋭い爪で、鬼を引き裂いた。
 ただでさえ迦楼羅炎に焼かれていた鬼は、小さな煤となって、さらさらと落ちる。
 煤と一緒に落ちて来た雨粒は、瞬く間に大雨となり、辺りに飛び散った血を洗い流した。

「章親。帰ろうぞ」

 龍のままの魔﨡が言い、頭を下げて、倒れている章親の下に鼻先を突っ込む。
 傷のこともあるし、早く屋敷に帰って手当てしたほうがいい。
 どうせ歩けないし、と思い、守道は章親を手伝って、魔﨡の上に上げた。

「惟道も連れて行くか。多分こっちは大丈夫だが、あっちは……」

 ちら、と屋敷のほうに目をやり、守道は階を上がって簀子を覗き込んだ。
 血の海の中に、道仙が目と口を大きく開けたまま横たわっている。
 喉笛が食い破られ、首が奇妙に曲がっていた。

 守道は軽く頭を振り、道仙の傍に落ちていた古い巻物を手に取った。
 倒れた拍子に落ちたのだろう。

「守道、何をしておる。早ぅ乗らぬか」

 魔﨡が苛々したように声を掛ける。
 皆運んでくれるらしい。

 守道は巻物を持ったまま、急いで魔﨡に駆け寄り、その背に飛び乗った。
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