諸々の法は影と像の如し
 顔を上げた章親に笑いかけ、守道は簀子を歩いて行く。
 その後ろ姿を見送り、守道の言葉を反芻する。

 守道は昔から、章親には素晴らしい力がある、と言ってくれる。
 ただそれを具体的に教えてくれないので、単なる慰めとも取れるのだ。

 守道は、章親が自分で気付かないと意味がないので言わないだけだが、目に見えないだけに、しかも章親自身は常に周りが清浄なだけに、自分で気付くのは難しい。

「お主は、我では不満か」

 欄干に腰掛け、庭のほうを向いたまま、御魂がぼそりと言った。

「まさか。僕には勿体ないほどの御魂様です。だからこそ、申し訳ない」

「申し訳ない?」

 少し御魂が片眉を上げて章親を見た。

「だって、誰が見ても不釣り合いじゃない。皆が笑うのも無理ないし。御魂様も、がっかりしたでしょ? まさかこんな力のない陰陽師に降りてしまうなんて」

 しばし、じ、と章親を見ていた御魂だが、とん、と欄干から飛び降りると、章親のすぐ前に立った。
 そして、おもむろに錫杖を振り被る。
 ビビった章親が身構える前に、それを振り下ろした。

「……!!」

 ぎゅっと目を瞑った章親の頭上で、しゃらん、という音がした。
 同時に烏帽子に、何かが触れる。
 恐る恐る目を開くと、頭の少し上で錫杖は止まっている。
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