諸々の法は影と像の如し
「あの宮様、また来てるのか」

 呆れたように言う守道に、章親は困った顔のまま頷いた。
 それに応えるように、さらさらと衣擦れの音がし、ひょこりと宮様が姿を現した。

「章親。守道が来てるんですって?」

「宮様っ。そう軽々しくお姿を曝さないでくださいってば」

 慌てて身を起こそうとする章親に、一緒に部屋に入って来た魔﨡が素早く駆け寄る。

「こりゃ章親。まだ傷も治っておらぬのだから、寝ておかぬか」

「で、でも宮様の前で、そんな無様な格好出来ないよ」

 言い合う二人を気にもせず、宮様はすとんとその場に座った。
 そして扇を広げる。

「お久しぶりね、守道。宮中では人食い鬼を退治したお二人のことで持ち切りよ」

「宮様も息災そうで何よりです」

 本来このように言葉を交わすことも叶わない間柄だというのに、何だか慣れてしまった。
 それに、吉平も宮様が望むのであれば、それなりに付き合って差し上げるのもいいと言っていた。
 お寂しいのだろうから、と。

 ただここまで宮様のほうからぐいぐい来るとは思ってなかっただろうが。
 守道は床に手をついて、頭を下げた。

「それにしても宮様。聞くところによると、しょっちゅうこちらに来られているとか。伊勢に下る身でありますのに、よろしいのですか」
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