諸々の法は影と像の如し
 そうなのだ。
 あれ以来、宮様は身分を問わずにしょっちゅう来る。

 賀茂社参拝から鬼を退治するまでは、まぁお守りする、という名目があったので、安倍屋敷にいてもまだ良かったのだが、蘆屋屋敷から安倍屋敷に運び込まれた章親の元にもすっ飛んで来たし、それから内裏に帰るのも、なかなか承知しなかったのだ。

 それでも鬼は退治したので安倍屋敷に居座るわけにもいかず、しぶしぶ宮中に帰ったのだが、それからも三日に一度ぐらいはやってくるのだ。
 毛玉など、すっかり宮様に懐いている。

「章親様~。宮様が珍しいお菓子を持ってきてくれたんですよ~」

 その毛玉は、宮様の肩の上から章親に声を掛ける。
 ひぃ、と章親は青くなった。

「ちょ、ちょっと毛玉っ! 何軽々しく宮様に引っ付いてるのっ!!」

 守道や毛玉などは、もうこのような宮様の態度は慣れたようだが、章親は最近まで寝込んでいたので、慣れるほど宮様と接していないのだ。

「何よ、いまさら」

「守道も言ったじゃないですか。斎宮になろうというお方が、このようなところに来るものではありません」

 倒れ込むように平伏しながら、章親が言う。
 その頭を、いきなりばこん、と宮様の扇が討った。

「固すぎ! 何回言わすの! ちょっとは毛玉を見習って頂戴!」

 章親のすぐ前に膝を進めて、宮様がばんばんと床を叩きながら言う。
 毛玉も、ぴょん、と肩から飛び降り、章親に饅頭を差し出した。

「そうですよ~。ほら章親様、美味しそうでしょう?」

 章親に饅頭を押し付けつつ、毛玉はこそっと耳打ちする。

「宮様、章親様と仲良くなりたいんですよ。ほら、守道様は、どこか冷たい感じだし」
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