諸々の法は影と像の如し
「え、え? でも守道のほうが、まだ話しやすいんじゃない? 普通に喋ってるじゃない」

「そうですけど、でも守道様は、どこか壁を作ってる感じがするんですよね。章親様と喋るときは全然なんですけど、宮様には心開きませんよっていうか。突き崩せない壁を感じるんです。章親様は、遠慮さえしなければ、誰にでも優しいじゃないですか。女の人は、優しい人が好きなんですよ」

「な、何言ってんだよ」

「照れない照れない。とにかく宮様は今までお寂しいお暮しだったんだから、お友達が出来て嬉しいんですよ。もっと普通に接してあげてください。宮様、章親様のこと、ほんとに心配してたんだから」

 真っ赤になっていた章親が、う、と言葉に詰まった。
 そういえば、寝込んでいたとき、恐れ多くも宮様が何度もお見舞いに来てくれたとか。

「あ、その……。宮様にはお見舞いにまで来てくださったそうで、誠に申し訳なく……」

 ぼそ、と言うと、今度は後ろから、ばしん、と背中を叩かれた。

「そういう言い方は良くないと言うておろうが。全く章親は、女子の気持ちがわからぬ男よのぅ」

 いつもは章親を一番に考える魔﨡が、何故か宮様を擁護している。
 章親はじろりと後ろを向いて魔﨡を睨んだ。

「だってね。宮様は恐れ多くも伊勢に下ろうというお方なんだ。普通のお上の親族ってわけじゃないんだよ」

 斎宮というのは未婚の皇女。
 未婚、つまり純潔である、ということ。
 下手に男の影があっていいわけないのだ。
 が。

「あ、それ、なくなったの」

 軽く、宮様が言う。
 え、と章親と守道が目を剥いた。
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