諸々の法は影と像の如し
「でも斎宮の役も、取り止めになったのでしょう?」

「ああ、まぁちょっとした旅は楽しみだったけど。でもいいの。あのときは周りにほんとに親しい人とか誰もいなくてね。いっそのこと遠く離れたところのほうが、気も紛れると思ってたんだけど。今はほら、章親がいるし」

 言った後で、少し宮様は照れ臭そうに扇で顔を隠した。
 ちょっと妙な空気になったところで、宮様が話を逸らすように、きょろきょろと周りを見た。

「そういえば、あの器の子は?」

「あ、惟道殿ですか?」

 惟道も、蘆屋屋敷からここに連れて来た。
 その後のことは、章親も大怪我を負っていたのでよく知らなかったが、吉平が呪の経緯を視ているようだ。
 額の傷もかなり深く、なかなか目を覚まさなかったらしい。

「昨日やっと、お会いしたんだけど。傷のほうは、もう心配ないみたい」

「そうか。あとは呪の影響がどんなもんかで、今後のことも決まるかな。長い間、あの呪と共に生きて来たのだろうし」

 守道が、ちらりと簀子に目をやった。

「章親は、惟道をここに引き取るつもりなのか?」

「ん~、だって他に当てもないだろうし。惟道殿が、播磨に帰りたいって言えばそうしてもいいんだけど。まぁ父上のお考え次第かなぁ」

「ま、しばらくはここにいたほうがいいかもな。章親の傍にいれば、自然と浄化されるし。空気もいいしな」

 そう言って、守道は楓の持ってきた菓子を手に取った。
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