諸々の法は影と像の如し
「あ、額の印、なくなったみたい。道仙殿の投げた扇が、呪を破ったんだと思う。ちょっと傷が付いた程度だったら何ともなかっただろうけど、その、相当深い傷だったみたいだし。それにね、僕はちょっと気付いたんだけど、惟道殿に鬼の呪を施したときと同じ結界を使ったことも影響したんじゃないかな。扇に、呪が絡みついてたのかも。同じ呪を重ねると、危険なんだよね」

 通常呪は重ねるものではない。
 重ねる場合は質の違うものを用いる。
 攻撃系と防御系など。
 惟道の印もそうだった。

 正反対のものを重ねると、破れたときの衝撃が強くなる。
 危険なので、普通は重ねること自体をしないのだ。
 そういう基本も、道仙は知らなかった。

「だからもう、惟道殿に穢れはないよ」

 にこ、と章親が言う。
 近くにいても、もう以前感じたような不穏な空気は感じられない。

「もうちょっと浄化すれば、すっかり元通りだね」

「……元通り……?」

 ようやく惟道が口を開いた。
 あ、と章親は顔の前で手を振る。

「あ、ごめん。惟道殿にとっては、元通りってわけにはいかないかもね。道仙殿はもういないわけだし、屋敷もなくなっちゃったし」

 惟道の環境は、がらりと変わるはずだ。
 主はいないし、家もない。
 が、それは決して悪いことではないのではなかろうか。
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