諸々の法は影と像の如し
「あのさ。惟道殿さえ良ければ、ここで暮らさない? 元々道満殿と暮らしてたんだったら、同じような術師の家のほうがいいかもだし」

 じ、と惟道は章親を見る。
 澄んだ綺麗な、漆黒の瞳。
 すぅっと呑み込まれそうになる。

「道満殿が、惟道殿を見出したのが、わかる気がするなぁ」

 感心したように言う章親に、惟道は少し首を傾げた。

「俺には、そなたらのような力はない」

「う~ん、力っていうか、持って生まれたものだよ。生まれながらの依巫っていうか。何でも、すぅっと取り込んでしまうっていう」

 そっか、と章親は手を打った。
 だからこそ、道満は惟道を手元に置いたのだ。

 己の意識なく何でも取り込んでしまっていたら身が持たない。
 小さいうちは特に危険だ。

 ただでさえ抵抗力の弱い時期に、子供特有の純粋さもある。
 そんなときに、何でも身の内に取り込んでいたら、あっという間に死んでしまうだろう。

「道満殿は、惟道殿を守ると同時に、自分でもある程度身を守れるように傍で育てながら、術師としての下地を教えていたんだね」

 章親の言葉に、惟道は視線を庭に転じた。
 惟道自身は、特に道満に何を教わったわけでもない。

 が、きちんと教えるわけではなかっただけで、何かのついでのような感じで、軽く教えられていたものが、そういうものだったのかもしれない。
 道仙の兄が教えてくれた遊びの類も、今考えれば呪術的なものだった。

「もちろん惟道殿が、播磨に帰りたいって思うんだったら、そうしてもいいと思うけど」

「播磨……」

「道仙殿のお兄さん? が、いるんじゃないの?」

 ああ、と惟道は呟いた。
 しばし、ぼーっと庭を見る。
< 317 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop