諸々の法は影と像の如し
「そなたは、俺のことが気味悪くないのか」

 ややあってから、ぽつりと惟道が口を開いた。

「皆、俺のことを恐ろしいと言う。道仙のところに来る客人も、道仙自身も俺を恐れていた。気味が悪いんだそうだ」

「えーっと。前はちょっと、得体の知れない怖さってのがあったけど、それはほら、鬼を飼ってたんだからしょうがないよ。あれの影響が出てたんだと思う」

 今でもどこか浮世離れした感はあるが、禍々しさは感じられない。

「惟道殿はさぁ、表情が乏しいから、ちょっと何考えてるんだかわかんなくて、不思議な感じがするんだよ」

 なまじ綺麗な顔立ちなだけに、一切表情のない人形のようで近寄りがたい。
 お人形のような外見は、人によっては気味悪く感じるものだ。

「綺麗な顔立ちなのに、勿体ないね」

「この顔で、女子を蘆屋の家に引き入れたこともある」

 いきなり大人なことを言われ、章親は目を剥いた。
 同じぐらいの歳だと思っていたが、随分手が早い。

「こ、惟道殿も、なかなか積極的なんだね」

 赤くなって言うと、惟道は疑問符を顔に貼りつけて章親を見た。

「積極的も何も。道仙に命じられたからだ」

「え? え、何で?」

「鬼の性質を見るためだろう。己の欲望を満たす目的もあったようだが」

「えええっ! てことは、道仙殿は惟道殿に女子を連れて来させて、弄んだ挙句鬼の餌にしたっていうの」

「そういうことになるかな」

「何て奴だっ!」

 憤慨する章親とは対照的に、惟道はどこか冷めた目だ。
 不思議なものを見るような目で章親を見る。

 道仙が関係してきた女子など、章親はもちろん、惟道だって、さして知らない。
 そのような女子のために、何故ここまで心を動かすことが出来るのだろう。
 惟道は自分が屋敷に連れて行った女子が最終的に鬼に食われても、何とも思わないのだ。
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