諸々の法は影と像の如し
「そういえば、式部卿の姫君も、その一人ってことなの?」

 章親が言うと、惟道は首を傾げた。
 ややあってから、ああ、と小さく呟く。

「あの女子か。あれは、宮中に鬼を放つ足掛かりにするためだ」

「どういうこと?」

「俺にはよくわからんが、道仙が近付ける唯一の貴族だったんじゃないか?」

 人のやることに興味のない惟道は、屋敷に来る客人のことも良く知らない。
 ただ今までの客よりは、格段に身なりが違うので、相当な身分であることは誰にでもわかる。
 そのような場違いとも言える姫君が来るようになっても、貴族の階層も知らない惟道には、どうでもいいことなのだが。

「ただ下地を作るのに、いろいろ仕込んでいたしな。下女を誑し込むよう言われて、そこから少しずつ姫君の周りに術を施して。まぁ道仙の術だし、ちんけなものだが。それの祓いを道仙に頼むよう持って行って、姫君と道仙を会わせた」

 う~む、と章親は腕組みして考え込んだ。
 式部卿は閑職だ。
 住まいも山奥で、ほとんど世間に忘れ去られた存在である。
 財もそうないだろう。

 上手く内部の人間を取り込めば、道仙のような地下人が姫君と会うことも難しくないかもしれない。
 何といっても道仙は術師だ。
 何らかの祓いが必要になれば、声は掛かろう。

「宮中への足掛かりって? 鬼の餌にするつもりではなかったってこと?」

「姫君に穢れの付いた何かを持たせて、内裏にばら撒くつもりだったんだろ。そこを見られても捕えられるのは姫君だし、道仙は手を汚さずに内裏をめちゃくちゃに出来る」

「なるほど。でも式部卿の姫君って、宮中に上がること自体がないんだけど。僕、知らなかったし」
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