諸々の法は影と像の如し
 ほ、と息をつくと、御魂は手を緩めた。
 こつん、と軽く、錫杖が章親の頭を打つ。

「馬鹿者。お主はほんに情けない。我がそんな無能な輩の元に降りると思うか。泉に落ちたとはいえ、それはやはり、お主のせいなのじゃ。お主が我を呼び、我もお主に惹かれた結果じゃ」

「……えっ」

「と、とにかくお主は、もうちょっと自信を持て! 我に申し訳ないと言うのなら、我に相応しくなるよう努力することじゃ!」

 何故か慌てたように言い、御魂はぼこぼこ章親の頭を叩く。
 乱暴だが、御魂は御魂なりに、章親を励ましているのだろう。
 少し嬉しくなり、章親は、うん、と頷いた。

「そうだね。うん、御魂様に釣り合うよう、頑張るよ」

 にこりと笑う章親に、う、と御魂が僅かに仰け反る。
 章親が笑うと、それだけで、ぱっと辺りが明るくなる。
 可愛いのだ。

「あ、章親っ!」

「はいっ」

 いきなり名を呼ばれ、章親は思わず姿勢を正した。
 何か怒られるのだろうか、と思っていると、御魂はぺたりとその場に座って、章親と視線を合わす。

「お主、我に名を付けよ」

「えっ」

「お主は我の主なのだから、我を御す資格がある」

「そ、そんな」

 人外のものを使役する方法に、名を与えて縛るというものがある。
 名前というのはそのものを現すため、与えられた名という言霊によって縛られるのだ。
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