諸々の法は影と像の如し
 そう頻繁に出仕する必要があるのなら、山奥になど引っ込んでいられない。
 まして姫君であればなおさらだ。

「そこが道仙の馬鹿なところだ。まぁ俺たちは宮中のことなど、ほとんど知らないからな」

 女房の無残な死体を見せて姫君を支配しようとしたものの、恐れるあまり姫君は伏せってしまった。
 それに、いくら道仙が内裏に穢れを持ち込め、と命じたところで、姫君の一存で勝手に出仕できるわけでもない。
 宮中の細かいしきたりを知らない故の、浅はかな計画だったわけだ。

「道仙殿が亡くなった今、姫君もそのうち回復されるだろうね」

 人食い鬼が退治されたことは広まっている。
 道仙のことは誰も知らないらしいが、そのうち守道とお伝えしに行けばいい。
 守道は以前姫君の祓いを依頼されているから、面識はあるはずだ。

「とりあえず、今回の騒動は何とか治まった。何だかんだでしんどかったし、もうこんな事件は御免被りたいよ」

 はぁ、とため息をつく章親に、惟道は、ふ、と息をついた。

「陰陽師なのだろ。人ならざるモノと戦うのが仕事じゃないのか」

「そうかもしれないけどさぁ」

「そなたの周りには、人より物の怪のほうが多いではないか」

 言いながら、惟道が、ちょい、と庭の片隅を指す。
 池の飛び石の上に、緑色の小さなモノ。
 それは章親と目が合うと、きゃきゃ、と笑いながら、ぽちゃんと池に飛び込んだ。

「多いな……。術師の家だからか?」

 呟きながら顔を巡らす惟道の視線を追えば、木陰や軒先、至るところに物の怪の姿。
 それらは物の怪であるけれど、害のないモノだ。
 章親が昔遊んでいたようなモノたち。
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