諸々の法は影と像の如し
「楓ー。円座と脇息を差し上げて」

 章親が言うと、すぐに楓が飛んでくる。

「章親。もう怪我は大丈夫なの?」

「は。宮様にもご心配頂きまして、誠に恐縮……」

 がばっと頭を下げると、すかさずばこん、とその下げた頭を殴られた。

「固い! って言ってる! 惟道を見習いなさい!」

 章親を殴った扇を、そのまま宮様は惟道に突き付けた。
 その惟道は、何ら反応することなく、ぼーっとその場に座っている。

「何だか今日は空気がいつもより清々しいわね。惟道効果かしら? あなたも術師だったのよね?」

「俺は術など使えん」

 素っ気なく答える。
 この何者にも動じないところは羨ましい、と思いつつ、章親は宮様を見るわけでもなく膝の上の物の怪と遊ぶ惟道を見た。
 遊ぶと言っても、じゃれてくる物の怪の相手をしているだけだが。

---人より物の怪のほうが、付き合いやすいのかな---

 でも考えてみれば、僕もそうだな、と思い、ちらりと自分の周りに目をやる。
 階に座っていた守道が、同じように、そこに集う面子を見て、小さく呟いた。

「心配だなぁ」

「何が?」

「お前が、だよ」

 心配だ、と言うわりには、守道の顔は笑っている。
 章親がきょとんとしていると、守道は意味ありげに、皆に気付かれないよう、僅かに顎で章親の横を指した。

「お前の周りは、ほんとに物の怪ばっかりだ。見事にまともな奴がいない」

「いやいや、宮様もいるでしょ」

 そう言うと、守道は顔の前で大きく手を振った。

「お前、宮様がまともだと思うのか? 下級貴族の姫君だって、そうそうほいほい出歩かないぜ。まして男の元に通うなんてな」
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