諸々の法は影と像の如し
「なっ! 何てこと言うの! みみ、宮様は別に、通ってるわけじゃ……」

 焦った章親が、真っ赤になって仰け反る。
 でかい声を出してしまったので、その場の皆の視線が章親に集まる。

「何言ってるのよ。わたくしが何か?」

 ずい、と宮様が身を寄せる。
 それに、また章親は焦りながら身を仰け反らせた。

「宮様。宮様はあまり身分に拘らないということは理解しておりますが、ご自分の評判も考えてらっしゃいます?」

 笑いを噛み殺しながら、守道が言う。
 仰け反った章親が気に食わなかったらしく、さらに身を乗り出していた宮様は、少しだけ身体を戻して守道を見た。

「何、評判って」

「高貴な姫君が、男の元に通うなど。章親が忍んで行くならともかく」

「も、守道っ!!」

 何を言い出すのか、と赤かった章親の顔が青くなる。
 姫宮様のところに、官位も低い陰陽師が忍んで行くなどとんでもない。
 宮様はようやく身体を戻すと、扇を顔の前で開いた。

「だって章親、来てくれないもの」

 ぽつりと言う。
 おや、と守道は宮様を見た。

「だからと言って、自ら章親の元へ通っていると、あらぬ噂を立てられますよ」

「物の怪憑きの姫宮の、あとどんな噂が付くっていうの。物の怪憑きってだけで、殿方なんて皆背を向けるわ」

 拗ねたように言う。
 ああ、と章親はようやく落ち着いた。
 れっきとした姫宮様でありながら、鬼と関わってしまったせいで斎宮からは外されるわ、男からはそっぽを向かれるわの踏んだり蹴ったりな目に遭っているのだ、とわかり、章親はその場に深々と平伏した。
< 324 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop