諸々の法は影と像の如し
「式には名を付けているではないか」

 何故か悔しそうに、御魂が言う。

「式には己できちんとした名を付けるのに、我の名を呼ぶのは嫌なのか」

 じわ、と御魂の目に涙が浮かぶ。
 ますます章親は慌てた。

「いえっ! あの、嫌なわけではないんです。あの、御魂様はどう考えても僕が主となるには相応しくないというか。いえっ! あの、御魂様が僕に相応しくないんじゃなくて、僕が御魂様に相応しくないと思うんです!」

「……何故そう思う」

「御魂様自身も言ってたじゃないですか。見て来たでしょ、物の怪を祓えず怖がってばかりで情けないって。僕も自分で陰陽師には向いてないってわかってますよ。安倍の家に生まれたからって父上やおじいさまのように才能があるわけでもない。物の怪に対する恐怖心なんて人一倍ですよ。そんな者に物の怪退治なんて、出来るわけないじゃないですか」

 章親の心の中に燻っていたものが、一気に流れ出る。
 御魂は、じっと章親を見ていたが、ずい、と身を乗り出して、章親の目を覗き込んだ。

「我もな、初めは何でこんな情けない奴の元に降りてしまったのかと思うた。けど、我が強く惹かれたのは事実だし、それに、今のお主の言葉を聞いて、何となく合点がいったぞ。そんなお主だから、我が必要なんじゃ」

 静かに言う。
< 34 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop