諸々の法は影と像の如し
第三章
 夜の都大路を、一台の牛車がゆるゆると進んでいる。
 貴族の逢引の帰りらしく、目立たぬ造りの網代車に、牛飼い童と従者がついていた。
 牛車は都大路から折れ、堀川のほうへと進んでいく。

 そのとき、ゆら、と闇が動いた。
 従っている者は気付かないが、牛は異変を嗅ぎ取った。

 立ち止まり、盛んに鼻を鳴らして地を蹴る。
 牛飼い童が慌てて牛を宥めた。

「どうしたのじゃ」

 牛車の中から男が顔を出す。

「も、申し訳ありません。牛がいきなり……」

 従者が牛車の物見窓に近付き、報告する。
 従者の持つ松明が男の顔を照らしたとき、闇の中から何かが飛び出した。
 従者の頭の上を飛び越え、物見窓から中に飛び込む。

 牛車というのは、結構な高さがある。
 物見窓は、ゆうに外に立つ従者の頭の上にある、小さな窓だ。

 窓の縦の幅は、人の顔ほどもない。
 そのようなところから、何かが飛び込んだのだ。

 一瞬しか見ていない従者も、ぎょっとしたが、中にいた男はもっと度肝を抜かれた。
 どた、と牛車の中で倒れる音がする。
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