諸々の法は影と像の如し
 洛外のうらぶれた土地に、一軒の屋敷があった。
 土地に相応しくなく立派な屋敷だが、雰囲気がやたらと暗い。

 その広大な庭を、一人の少年が歩いていた。
 抱えた笊の中には、芋や山菜が入っている。

 一旦厨に入った少年は、すぐに斧を持って出て来、薪割りを始めた。
 やっていることは下働きの下男のようだが、着ているものは、そう粗末なものではない。

「惟道(これみち)」

 不意に、屋敷の中から声が掛かった。
 少年が手を止め、振り返る。

 少し離れた渡殿に、壮年の男が立っていた。
 男は手に持った扇で口元を隠し、目を細める。

「これへ」

 動かない少年に手招きする。
 男はこの屋敷の主、蘆屋 道仙(あしや どうせん)。
 一方惟道と呼ばれた少年は、道仙の弟として育った。

 が、扱いからして正式な子供というわけではないらしい。
 もしかすると、単に拾われただけなのかもしれない。

 道仙に再度呼ばれ、ようやく惟道は斧を置いて渡殿に歩み寄る。

「上手くやったようだの」

 渡殿に屈み込み、道仙が口元に扇を当てたまま、ぼそ、と言った。
 惟道は黙っている。

「此度のことは、前哨戦じゃ。もう少し京を騒がせた後、本命に取り掛かろうぞ」

 ほほほ、と笑い、道仙は立ち上がると渡殿を歩いて行った。

 その場に佇む惟道の前髪を、ひゅ、と風が乱した。
 露わになった額には、不思議な痣が浮き上がっている。
 惟道は頭を振って前髪を戻すと、渡殿に背を向けた。
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