諸々の法は影と像の如し
「こちらへ」
再度促され、女房は主である女子に一礼すると、大人しく惟道の後についてきた。
「こちらでお待ちを」
惟道が女房を案内したのは、がらんとした一つの部屋だった。
特に何の調度もない。
入口以外は三方壁の、小さな部屋だ。
部屋の中央辺りに、今にも消えそうな灯が小さく揺らめいているだけ。
「あ、あの」
少し不安に思い、女房が足を止めて惟道を見た。
「あ、灯りを、もそっといただけませぬか」
女房の言葉に、惟道は特に動かなかった。
ただ口元に、うっすら笑みを浮かべているだけ。
相変わらず能面のような顔に、女房はぞっとした。
本能が、この部屋にいてはいけない、と警鐘を鳴らす。
女房は簀子に出ようとした。
が、惟道が動くほうが早かった。
「ご心配には及びませぬ」
女房よりも先に、戸に手をかける。
きぃ、と小さく軋んで、扉は女房と惟道を隔てた。
「暗いほうが、恐怖も和らぎましょう」
惟道の半月状の口からこぼれた言葉を残し、ぱたん、と戸が閉められた。
慌てて扉に取り付こうとして、初めてこの戸には中からの取っ手がないことに気付く。
再度促され、女房は主である女子に一礼すると、大人しく惟道の後についてきた。
「こちらでお待ちを」
惟道が女房を案内したのは、がらんとした一つの部屋だった。
特に何の調度もない。
入口以外は三方壁の、小さな部屋だ。
部屋の中央辺りに、今にも消えそうな灯が小さく揺らめいているだけ。
「あ、あの」
少し不安に思い、女房が足を止めて惟道を見た。
「あ、灯りを、もそっといただけませぬか」
女房の言葉に、惟道は特に動かなかった。
ただ口元に、うっすら笑みを浮かべているだけ。
相変わらず能面のような顔に、女房はぞっとした。
本能が、この部屋にいてはいけない、と警鐘を鳴らす。
女房は簀子に出ようとした。
が、惟道が動くほうが早かった。
「ご心配には及びませぬ」
女房よりも先に、戸に手をかける。
きぃ、と小さく軋んで、扉は女房と惟道を隔てた。
「暗いほうが、恐怖も和らぎましょう」
惟道の半月状の口からこぼれた言葉を残し、ぱたん、と戸が閉められた。
慌てて扉に取り付こうとして、初めてこの戸には中からの取っ手がないことに気付く。